今回のライフキャリアインタビューは、小沢宏美さんにお話をうかがいました。
実は、学生時代はもともと専業主婦志望だった小沢さん。働く意思がなかったものの「人が働く理由を知りたい」と思って社会人になり、今では女性エンジニアのキャリア支援が目標となり独立するまでに。
働く理由がなかった女性が独立するに至った、キャリアの転身ストーリーと、転機を好機に変えたコツをご紹介します。

小沢宏美(おざわ ひろみ)さん|WITY 代表
2007年大学を卒業後「人が働くこと」に興味を持ち、株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア株式会社)へ入社。 キャリアコンサルタントとして2500人、人事として500人、エンジニアの勉強会サイト&会場 TECH PLAY(旧dots.)コミュニティマネージャーとして2000人、計5000人以上のエンジニアから「働く」ということについての相談を受ける。 2018年2月「エンジニアを楽しむ人を増やしたい」という想いより、同コミュニティのWITYを設立。 エンジニアを中心とした働く支援の活動中。
働く意思がなかったからこそ、働く目的を知るために社会人になることを決意
ーーHR業界を志望されたきっかけは?
小沢さん:実は、もともと専業主婦になりたくて、働きたいという意欲は低かったんです。父は大学の教授、母親は専業主婦だったこともあって、大人になったら結婚・出産して主婦になるものだと思い込んでいました。
でも、働きたくない気持ちがある一方で、「どうして人が働くのか」「働く目的が何なのか」を知りたいと思うようになり、就職活動をしてみることにしました。
そこで知ったのがHR業界。
働く目的や、世の中に存在する数多くの職業を知ることができそうだと思い、興味が湧いたんです。実際に就職活動をはじめてみるとだんだんと負けず嫌いな性格に火がついて、「どうせ働くなら総合職の方がやりがいを得ることができそう」「働くなら稼ぎたい、負けたくない」と思うように(笑)。
結果として、HR業界3社から内定をいただきました。
当時、大学の先輩たちの多くがHR業界で働いていたこともあって、転職エージェントビジネスが特に盛り上がっていることを知りました。
人が働く目的をダイレクトに知ることができるのが転職エージェントだと感じ、転職エージェント事業が強かった旧インテリジェンス(現パーソル)に入社を決めました。
専業主婦志望だった私がHR業界の総合職に入社を決めるなんて、驚きですよね。
ーー実際に入社してみたときの印象は?
小沢さん:入社して感じたことは、自分と会社との温度差ですね。
当時のインテリジェンスは学生団体の意欲高い系のノリや、起業志向の社員ばかりで、働く目的を見つけて社会人にはなったものの、周りの同期や先輩と比べたときに温度差を感じてしまいました。
もともと人見知りということもあって、研修期間中も本腰を入れることができないまま時間が過ぎていき……。
気持ちが上の空でも、目の前のタスクは山ほどある。マインドと業務がピタッと揃わないコンディションのなか、毎日やならければいけないことで埋め尽くされていたことを鮮明に覚えています。
それに、ルーティーン業務が苦手だったこともあって、上司に「基礎行動がなっていない」と指導されることもしばしば。
当時の私は、目の前の仕事の目的を自分の中に落とし込むことができていなくて、前のめりになって自主的に仕事をしていたというよりも、やらされ感で仕事をしてしまっていました。
むしろ、「仕事をするか、結婚をするか」しか頭になくて(笑)。
ただ、その時は、結婚する予定はなかったので「今は仕事をするしかないか」と、そんな気持ちで仕事をしていました。
今振り返ると、「自分と目の前の仕事・会社の方向性をつなげて考えることができていれば、もっと早い段階から仕事に目的をもって取り組むことができたんじゃないか」と思います。人の働く目的を知る前に、自分の働く目的にもっと向き合う必要がありましたね。
ーー目的が見出せない状態で、どのように仕事をやり続けたんですか?
小沢さん:実は月次でおこなわれる定例会で表彰されることが何度かありました。まだまだ半人前でしたが、表彰されることが嬉しくて、仕事における唯一の心の支えでした。
そんな2年目の秋にリーマンショックが起こり、好調だった事業の業績が一気に冷え込みます。採用ニーズが低下し続けても、業績に対するプレッシャーは増すばかり。
成績が安定しない状況が続き、チームで仕事をしていても、そのプレッシャーに耐えられなくなったことがありました。
でも、「大変な状況であるときこそ負けてはいけない」と思ったんです。
辛いときに残って頑張ることこそ本物だな、と気づいて。
一時的な心配をかけてしまいましたが、それ以降少しだけ働く目的がみえたんです。辛いときに逃げると語れるものがありませんよね。
損得よりも情熱を優先した決断が転機につながる
ーー苦労の若手時代を経て、ご自身にとって変化したことはありますか?
小沢さん:私は入社以来、エンジニアの転職アドバイザー(以下CA)を担当していて、ちょうど6年目になったタイミングでキャリアカウンセラーの資格も取得しました。
長くCAとして業務に携わるうちに、「転職という、キャリアの一点に対してのかかわりではなく、長期的な支援をしたい、働く人のモチベーションにかかわる仕事がしたい」と思うようになっていました。
エンジニアの働くモチベーションをあげるセミナーなどを、自分で企画・集客をして開催するなど新しい挑戦もしましたが、なかなか「長期的なキャリア支援」「働く人のモチベーションにかかわる仕事」をカタチにすることができずに悩んでいました。
そんなタイミングに、以前の上司である旧インテリジェンスビジネスソリューションズ(現パーソルプロセス&テクノロジー)の社長が、「ちょうど採用担当のポジションが空いているから、やってみないか。小沢のやりたいことができるんじゃないか」と声をかけてくださったんです。
6年目にもなると仕事にも慣れます。
日々の仕事に向き合えば向き合うほど、成果が出ることはわかっていました。
ただ、社員数が増えるにつれて業務はシステム化され、効率的に仕事ができるように整備されましたが、自分なりのやり方ができなくなってきたことが、少し窮屈に感じることもありました。
もっと自分自身で考えて仕事をしたいと思い、キャリアチェンジや転職を考えていたタイミングでもありました。
採用担当の仕事をするる発想はなかったものの、既存社員や入社を希望する方のキャリアに寄り添うことができれば、モチベーションにかかわることもできると感じ、グループ会社の採用担当というポジションにチャレンジすることにしました。
ーー躊躇なく決断されていますが、決断するときに心がけていることは何かありますか?
小沢さん:既存事業にいれば成果も出せるし、気の知れたメンバーと仕事ができます。一方で、部署異動して新しい仕事にチャレンジしても、今のような成果を出せるのかなんて保証はありませんでした。
でも、私はそういった不安を考えることに時間を使うよりも、やりたいことや問題意識のあることのために時間を使いたいと思っています。
なのでこの時も、あまり躊躇することなくキャリアステージを変える決断をしました。
損得よりも情熱を大事にしているからか「これをやりたい!」「これをやるべきだ!」と思ったら行動に移していくのは早いのかもしれません。
この行動スピードが決断も早めるし、チャンスを逃すことがなかったのかもしれません。「どこに時間を使うか」はポイントかもしれませんね。
それに、私は人に恵まれていたと思います。
旧インテリジェンス(現パーソル)は、社員の自主性を尊重したいて、だからこそ多くの女性社員が活躍していました。
そんな環境に身を置いていたこともあって、自分から動いていくことで思いがカタチになることや、性別関係なく活躍できることがわかっていたのも決断の早さに影響していたのかもしれません。
ーーキャリアステージを変えてみてどうでしたか?
小沢さん:6年目に採用担当としてキャリアステージを変えたことが、実は私にとって転機になりました。
転職エージェントのCAとして成果は残していましたが、「正直やらなければいけないからやっていた」というのが本音のところで、目的をもって、自分自身でゼロから仕事をしたと思えたのは採用担当をしてからなんです。
今までは、上司がいつも近くにいる環境でした。
成果を上げるにも、企画をするにも、必ず上司のサポートや指導があって成り立っていました。
でも、採用担当になったとき、上司はいませんでした。
その状況になってみて、初めて自分ひとりで【計画を立て、実行し、成果を残す】という一連のプロセスを経験することになったんです。しかも、メンバーを1名マネジメントしながら。
半年間に5部署で約70名の採用をすることをミッションとして掲げ、初めて自分で立てた計画と方法で実現させることに集中しました。半年間走り続けた結果、無事に達成。しかも、今までにないスピードでの達成ということもあって表彰を受けたんです。
初めて仕事で達成感を味わうことができました。人より遅かったと思いますが、上司不在の状況が自分を生まれ変わらせる好機となりました。
ー自立して仕事をすることで、新しく身に付いた仕事の習慣はありますか?
小沢さん:今まで上司がいることで、当たり前のようにサポートをしてもらえたり、甘えていたり、時には文句を言ってしまっていたりしました。
本当の意味で自分で考えて行動することになったことで、文句ではなく提案をしたり、仕事をとりにいくスタンスに変えることができたんです。
それ以降、本業の仕事以外に手が空いているときは、社内で「仕事が欲しい」と伝えるようになり、社内のさまざまな仕事に携わることができました。
自分から仕事をとりにいくと一時的に仕事は増えますが、できることが増えるだけでなく、仕事を楽しくしてくためのコツだと思っています。
どうせはじめるなら自分で舵をとる
ーーキャリアチェンジ自体(CAから採用担当への転身)から得たことは何ですか?
小沢さん:CAから採用担当へとキャリアチェンジして気づいたことは、「採用担当の仕事は大好きだけど、事業サイドで事業自体を成長させることの方がもっと好きだ」ということです。これは、経験しなければわからなかったことですね。
キャリアチェンジする前の部署では、業務が効率化したことに窮屈さを感じていましたが、売上をあげて事業を育てることには「自分が事業を支えている」「牽引している」という当事者意識をもって仕事ができるという醍醐味があったということを痛感したんです。
そんなとき、転職エージェント事業時代の先輩から、エンジニアの勉強会会場やコワーキングスペースを展開するdots.(現TECH PLAY)で、事業運営をやらないかと声をかけていただきました。
時を同じくして、採用した方の入社後のモチベーション&スキル向上に興味を持っていたんです。
エンジニアの職に就く人たちは、社外の人とコミュニティをつくって切磋琢磨していて、勉強会も頻繁に開催がされています。
実際に、私も運営方法を学びたいと思うようになり手伝いはじめたのですが、非常にやりがいのある活動だと感じました。また「事業サイドに再び戻って企業を成長させていきたい」と思う気持ちも強く、転職することを決意。
dots.ではコミュニティマネージャーとして、コミュニティの企画・運営を担当しました。ここでの仕事が2回目の転機になります。
仕事をすればするほど、自分のやりたいことや方向性が明確になっていき、「エンジニアの女性がかかえる問題を解決することで社会の役に立ちたい」という目標ができたんです。
旧インテリジェンス(現パーソル)を退職するころには、たくさんの女性社員が結婚・出産を経験して戻ってくることが多かったのですが、入社当時は制度や環境が不完全で、私の同期たちが前例となり環境を整えていきました。
その甲斐もあって、わたしが退職するころには100名以上の女性社員が産休・育休取得中だったと聞いた記憶があります。
エンジニアで働く女性は、今がまさに変革期なんです。だから、インテリジェンス時代に制度として整っていない状況から自分たちが前例になってつくっていったように、前例がなくても自分たちが働き続けるために必要なものは自らの手でつくっていくことも伝えていきたいですね。
こうした思いをカタチにするためにいろいろな方に相談をしたところ、共感をしてもらえただけでなく、一緒にやりたいと言ってくれる友人も出てきて。
それであれば、「独立してやってみよう」という話になっていきました。正直なところ転職と違って不安が頭をよぎりましたが、情熱がまさっていたので思い切って独立することにしました。
ー独立をして会社員時代から変化したことは何ですか?
小沢さん:思いを口にすることって大事ですよね、それが人生を変えるようなこともあります。
会社員時代も独立した今も、口にすると思いが誰かに響いたり、つながりが生まれたりしながらどんどん実現していくことを実感しています。
独立といっても日が浅いのでこれからが本番です。独立して半年が経過しましたが、打算で仕事はしてはいけないと思っています。それは信頼を損ねてしまうから。期待を超える仕事をし続けることでしか、仕事はやってこないんです。
仕事が来ないかもしれない不安と戦いながらも、何よりも、真っ当に仕事をすること、期待以上の仕事をすることに神経を集中させることが、次の仕事につながります。
今後には、会社を会社として成り立たせるのはもちろん、今まで私は誰かに機会を与えてもらって好機に変えてきたので、次は私が誰かに機会を提供して、サポートをする立場になりたいと思っています。
少し話が変わりますが、仕事に本気になれなかった若手の時期も、上司に支えてもらって成果が出せた時期も、採用担当としてキャリアチェンジした時期も、ここまで来るまでに無駄な経験はひとつもなかったです。
だからこそ、人のキャリアを応援し続けたいと強く思っています。
ーライフイベントについてはどう考えていらっしゃいますか?
小沢さん:独立した当初は忙しくてライフイベントが遠ざかるのかもしれないと思ったことがあります。でも、独立しても、変わらず結婚・出産・育児も実現していきたいと考えています。
仕事を優先すべきタイミングはありますが、仕事を理由に諦めるのはもったいないですし、エンジニアの女性のサポートをするためにも経験したいと思っています。
編集部より
いかがでしたでしょうか。
専業主婦志望で、人が働く目的を知るために社会人なった小沢さんですが、今ではエンジニアとして働く女性のキャリアや働き方を支援することが自身の働く目的となり、独立という決断にまで至りました。
キャリアの方向性は人それぞれですが、キャリアの方向性を決めるのは「機会」を「好機」へと転換する行動や思考にコツがあります。
小沢さんの場合は、悩むことに時間をかけずにやりたいことのために時間を使うこと、損得で行動するのではなく情熱を優先することでした。
今、みなさんが目の前に情熱を注ぎたいものがあっても、ライフイベントとの兼ね合いで諦めかけていたり、結果が出るかわからなくて不安に感じていたりするとしたら、行動を起こすという選択の方が、想像している以上のチャンスを引き寄せることになるのではないでしょうか。
小沢さんのキャリアは、それを体現されているかのようですね。