きらキャリ

Life Career Interview 13|どんな逆境も、仕事という社会で果たす役割を持ち続け、自分で人生をコントロールする

20代からまるで人生を凝縮したかのようなさまざまな経験をされ、現在は管理職として働くバイドゥの矢野さんにインタビューをさせていただきました。

こどもがいることが仕事のハンデになると感じたことはなく、むしろ「自分のペースをこどもがつくってくれている」と思うに至った経験や、「自分にできることを増やすことが有効だ」と思う理由を教えてくださいました。

人生は時として、思った通りにいかないことも起きます。それでも「自分がこうしたいと思ったから、決断した」と言えるように、自分で人生をコントロールすることの大切さに気づかされるインタビューです。


矢野 りん さん| バイドゥ株式会社 プロダクト事業部 部長

美大卒業後、プロバイダー会社に就職。Web制作に携わったことがきっかけで独立。ライターや執筆活動を経て、Android用日本語IME(入力変換)のアプリSimejiを開発。現在は、バイドゥ株式会社のプロダクト事業部部長としてフルタイム就業しながら、15歳と4歳の子育てと両立中。

とことんスキルをあげることに時間を使った20代

ーー20代のころはどんな働き方をされていたのですか?

矢野さん:まだ企業や学校にしかインターネットが普及していなかった時代に社会人になったのですが、私はインターネットをつないでいたプロバイダ会社に新卒で入社して、法人向けのWebページ制作の仕事に携わっていました。

そのうち、Webページを通して「プロモーション」することへの興味がふくらみ、音楽制作をしていた友人と一緒に、音楽制作からWebプロモーションまでを事業とする会社を立ち上げました。

今だから言えることですが、当時は毎日決まった時間に会社に通うことが苦手で(笑)。

でも、仕事をすることはとても好きだったので、朝はプロバイダ会社で働いて、夜の6時くらいからは別のデザイン会社に移動して深夜まで働いていました。

仕事が終わってから飲みにいって、午前3時くらいに帰宅して寝るという怒涛の20代を過ごしました。

大変そうに聞こえるかもしれませんが、当時技術の進歩もいちじるしく、Webページや動画、3DCGの制作の仕事をすればするほど、できることが増える実感があって楽しいと感じることの方が多かったですね。

ーー「自分の強みはこれだ」と言えるようになるまで、どのような努力をされたのですか?

矢野さん:これは私の個人的な意見なのですが、会社勤めをしていたとき、毎日6時半に帰って自分の趣味に打ち込んでいるメンバーを見ていて「もったいないな」と思っていたんです。

「もっと仕事を通して、自分自身のスキルをあげることに時間を使うこともできるのに」と思ってしまう自分がいました。

結婚したのも20代ですが、当時「朝から晩まで働いていて、何が楽しいの?」と元夫に言われることもしばしばありました。

しかし、自分にとってはスキルをあげてできることが増えていく過程がすごく楽しくて、趣味や休息に使う時間も仕事に打ち込んでいました。

結果的に、人の何倍も仕事に打ち込んだその経験は「強み」になったんだと思います。

ーー休みなく働きながら、家族ができたときには生活の変化などはあったのですか?

矢野さん:そうですね、はじめての出産は29歳のときで。

時を同じくして、元夫がタイに転勤することが決まったので、会社のメンバーから抜けて、ついていく決断をしました。

せっかく立ち上げから経験した会社でしたが、海外駐在できる経験は今後巡ってこないかもしれないので、当時はあとさき考えずに決断したんです(笑)。

現地での生活は1年でしたが、とても楽しかったですよ。

大使館のイベントに出席してチャリティイベントを開くなどコミュニティへの参加も経験しました。

タイにはティーコゼという温かいお茶をさめないようにするポットマットがあるのですが、そのティーコゼをつくる教室やカービング、クッキングなど、いろいろな教室に通っている奥様たちと交流しながら、日本で送っていた生活とは一味違う体験が新鮮でしたね。

いままで仕事漬けの生活だったので、「仕事をしたくなるのかな」と思っていましたが、仕事から離れることで、また見えてくる世界があるものだと、とても貴重な経験になりました。

ーー新しい経験をされたタイ帰国後は、日本の生活で何か変化がありましたか?

矢野さん:帰国後は「また仕事をしたいな」と思いはじめまして(笑)。

以前からお世話になっていた日経BP社から記事ライティングのお仕事をいただきながら、少しずつ仕事の感覚を取り戻していきました。

そのときは、まだお乳を飲ませるほどのこどもを脇に抱えながら、カメラをもって取材に出かけていたんですよ。

それが難しいときは、取材場所の近くに託児所を探して、こどもを預けてから取材に出かけて、終わったらお迎えにいく、という日もありました。

もう10年以上前のことですが『デザインする技術』という自分の書籍を書く機会にも恵まれました。

ーーいろいろな仕事を経験されているんですね!書籍を書くというチャレンジにはどんな目的があったのですか?

矢野さん:当時はこういった本がなかったので、この書籍を出版してくださったMdNの編集担当の方と雑談をしながら「こんな本があったらおもしろくないですか?」などと話していたら、興味をもっていただき書籍化することになったんです。

あの時、本を書いたのには「将来の仕事の幅を広げる」という、大きな目的がありました。

というのも、Web制作の技術は将来自動化されるだろうと感じていて、そうするとWeb制作ができる人は世の中に多くは必要ないかもしれないと思っていたんですね。

でも、コンテンツそのものを制作・編集できるスキルがあれば、Web制作が自動化された未来でも仕事につながると思い、文章を書いたりコンテンツを企画するなど、意識的に新しい挑戦をすることにしました。

Web制作の知見はあっても書籍のようなコンテンツ制作についてはそれほど経験はなかったため、ときには「こんな文章では売り物として出せませんよ」と言われることもありましたが、構成の仕方などを含めてゼロから学びながら完成させました。

今、デザインを勉強されている方から「実は、学生時代にあの本を読んだことがきっかけでデザイナーになったんです」という嬉しい感想もいただくこともあるんですよ。

出産したことで、健康にもなったし、効率的に仕事ができるようになった

ーー出産・育児を経験したことで、仕事漬けの生活の時と変化したことはありますか?

矢野さん:ひとつは、こども中心の生活になったことで、とても健康になったし効率的に仕事をするようになったんです。こどもがいるからといって働かなくなったかというと、そうはなりませんでした。

具体的な変化だと、こども授かる前はお酒を飲んだあとにカップラーメンを食べるなんてこともありましたが、こどものことを考えると野菜多めの食事をつくるようになり、食べるものが健康的になりました。

また、若いころは自分のペースで仕事ができていましたが、今は仕事をするにも集中できる時間が限られています。

こどもを寝かしつけながら仮眠を2時間ほどとって、夜10時から夜中の3時くらいまで仕事の時間を取っていました。ときには夜の9時から寝て夜中3時起きて仕事をすることも。

時間が限られる分、自分でうまくペース配分をしながら仕事と家庭を両立するようにしています。

もうひとつの大きな変化は、「自分のやりたいことを思いっきりやろう」という気持ちになったことかもしれません。

今までもやりたいことはとことんやってきてはいましたが、結婚してからというもの、「夫に気を遣っているな」と感じていて。

子育ての考え方に行き違いがあって離婚を決意したのですが、私ひとりで子育てをしなければいけないので、自分が力を試されるときがやってきた、という覚悟に変わりました。

ーー覚悟をどんなアクションに変えていかれたのですか?

矢野さん:これは経験談からですが、離婚には結構お金がかかったんです。

当時、引越しやこどもの送り迎え用に車を買うなど、お金がかかりすぎて一時貯金が2500円くらいになったこともあって。

10年前は新しい住居を探すことも大変でした。母子家庭だと、なかなか貸してもらえる部屋がないんです。最終的には、大家さんが裏に住んでる一戸建てを横浜で借りることができたんですけど、ボロボロだったんですよ(笑)。

「ママ、お家に雨が降ってきたよ」「あ、ほんとだね」
「ママ、朝日が差し込んできた、壁から」「壁にお手紙差し込むか」

なんて会話をしながら、「ここから頑張らなきゃな」という気持ちが強くなりました。

追い込まれると、人間頑張れるものなんですね(笑)。

自分ひとりでこどもを育てていかないといけないと思うと、「大きいお金を手にできるほどの責任と技術力を持たないといけない」と考えるようになって、一度自分の強みを見つめ直し、Webページ制作のスキルを活かす道にシフトチェンジをしました。

新しく企業のWebページのデザインやプロダクトマネジメントをするプロジェクトマネージャーの業務をはじめることにしたんです。

そんな時、ちょうど2010年くらいですが、アプリ開発が注目されるようになってきました。たまたまGoogleの開発者の方と話をする機会が巡ってきたとき、「アプリは誰でもつくれるんだよ」とアプリの動作をみせてもらったんです。

当時、スマートフォンを見たことも触ったこともなかったので「すごいおもしろい!」と感じたんですよ。今でこそアプリはスタンダードなサービス形態ですが、その時はまだまだ先駆けだったんです。

開発者とつながりをつくって、アプリ開発をはじめることにしたのですが、そこで生まれたのが「Simeji(シメジ)」というアプリです。

ーー10年前にSimejiが誕生した背景には、そんな経験があったのですね。

矢野さん:そうなんですよ。

Simejiはもともと知り合いの開発者がほぼ完全な状態までつくってはいたんです。

たまたま勉強会でSimejiの開発者と会ったときに「ちょっと見てもらえませんか」と言われたので「もうちょっとここをこうしたら?」と少しフィードバックをさせてもらったんですね。

「じゃあ、その部分を修正してもらえませんか」とお声かけいただいてSimejiの開発に関わらせてもらうことになりました。

チームとして半年くらいかけて改修しつつ、市場にリリースすることになりました。

着せ替え機能をつけるなどのアイデアを共有したり、キートップの使いやすさを考えたりしながら、少しずつSimejiの認知度もあがってきたんです。

私にとって、この経験はとても意味ある経験だったと思います。

こどもはハンデにならない、今の自分はこどもがいるからこそ

ーー家庭と仕事を両立をすることで大変だったことはありますか?

矢野さん:実は、一度離婚をしたものの、Simejiの共同開発者と再婚をしているのですが、正直、ひとりで育てていた時の方が気楽だったかもしれないと思うときもあるんです。

もしかしたら、こどもがいることよりも、場合によっては結婚すること自体が女性にとっては大変な面もあるかもしれませんね。

たとえば、夏休みには「自分の親や相手の親に孫の顔を見せてあげなくちゃいけない」など、相手方の家族を考えて予定を組まなければいけないこともあるかもしれません。

関わる人が多くなるほど何かイレギュラーがあった時に、どうしても「巻き込まれてしまった」と思う気持ちになってしまいがちですが、私は「巻き込まれた」と考えたくはないと思っています。

離婚もそうですし、海外赴任についていったことも、起きたことすべてを「巻き込まれた」と思わず、「自分の意思で選択してきた」と思っているから、自分を強くする良い思い出として残っているんだと思います。

ーー育児をしながらでも仕事を続けることが「いいな」と思う瞬間はありますか?

矢野さん:常に良かったことしかないです。自分の仕事のペースをこどもがつくってくれるというところも良かったなと思いますね。

私は、放っておいたらいつまでも仕事をするし、自分がおもしろいと思ったことに夢中になってしまいがちで(笑)。

でも、こどもがいると「あ、お迎えの時間だ」と、区切りをつけたり、何時までにご飯を食べさせなきゃ、寝かせなきゃという1日のタイムラインができあがるのでそれはすごく良かったと思っています。

あとは、私が仕事をすることによって経済力も安定し、こどもを塾に通わせてあげることや、ピアノを習いたいと言ったら習わせてあげることができるので、仕事のやりがいはあります。

もともと仕事は好きですが、こどもがいなければこんなに真剣に仕事をすることってなかったかもしれません。

なので、こどもがいることに仕事上のハンデなんか全然感じていないんです。「こどもがいるから仕事に制約ができた」というようなことはほとんど感じないんですよ。

育児を通して、周りの人に助けてもらったり、逆に助けてあげたりすることも多く、周りを気にかけて持ちつ持たれつの関係も悪くないなと思えるようになったのも、こどものおかげかもしれないです。

いろいろな生活の形があるけれど、だからこそお互いに新しい刺激をもらって、また頑張ろうと思える関係って良いよなと思います。

それと、忍耐力というか、イラっとした時にグッとその感情をおさえて、相手のことを考えて自分の言動をコントロールすることも、育児の中で身についた能力です。会社のマネジメントでも有効に活用できています(笑)。

自分がしてもらったように、人のキャリアを伸ばすサポートをしたい

ーー今はどんなお仕事に関わっているんですか?

矢野さん:今は、Simejiというアプリを運用するにあたって、デザインや操作性の設計のレビューをしたり、またプロモーション活動のためにマーケティングチームと意見を交換してプロモーション方法を考えたりすることを仕事としています。

チームマネジメントで心がけているのは、「いいところはとことん伸ばす、できないことが明確ならそれ以外の分野で輝ける場所を提供する」というスタンスで、チーム全体を把握し、細かく担当分野を変えるようにしていること。

ひとりひとりのパフォーマンスを最大化することが大切だと思っています。

オフィスにいれる時間は限られているので、メンバーが悩んでいたり、困っていたりすることをタイムリーにくみ取れるように、コミュニケーションツールとして導入しているチャットツールを常に見るように心がけています。

あとは、たとえば土日に何かトラブルが発生してメンバーが本当に困ったときは、一番最初に手を差し伸べるのは自分でありたいと強く思っています。

自分自身がプライベートで大変な時に、周りからたくさん手を差し伸べてもらって思った通りにキャリアを形成してこれたので、こどもが手がかからなくなったら、メンバーひとりひとりにもっと向きあい、キャリアを伸ばしていけるようなサポートがしたいと思っています。

ーー働く女性として、一番伝えたいことは何ですか?

矢野さん:まずは仕事を手放さず、仕事を通して自分自身のスキルを磨くこと。

自分で出来ることをたくさん持っている方が、お金の面でも、自分の精神的な自由の面でも有効だと思います。

お金がなければ生きづらいことも多いでしょうし、自分の意志が貫けないときもあると経験を通して思うんです。自分自身にできることを増やすための手段でもある仕事は、続けていたほうがいいと思います。

もうひとつは、自分で決断すること。

何ごとも「○○をしたい」という気持ちがないと、行動しはじめないし、続かないと思うんです。

この「〇〇したい」の先に仕事があると思います。その結果としてお金を稼げて、そのお金で自分の生活の自由度が増すと思ったらいいことしかありませんよ。

私は一度離婚して、再婚もしました。もう一度結婚したいと思ったのは、彼が開発者として、飽くなき探究心やもっとスキルが欲しいという好奇心を強く持っている人だったからです。

それぞれがお互いの「○○したい」を尊重し、一緒に人生を歩んでいくことがパートナーシップとしても理想の形なのではと思っています。

編集部より

いかがでしたでしょうか。

どんな不都合なことが起こっても、自分の意思で決断するという気持ちを持つことが、自分の人生を一番いい結果へと導いてくれることを教えてくださいました。

また、仕事と家庭の両立をする秘訣は、全部を自分で完結させずに、少しくらい誰かに甘えてもいいという、心の拠り所を持つことなのかもしれませんね。

今、仕事と家庭の両立でいっぱいいっぱいになっている女性や、こどもがいることが仕事のハンデになっているかもしれないと不安に思うママにとって、そして未来のママにとって非常に背中を教えてもらえる内容だったのではないでしょうか。