女性の転職

Life Career Interview 17|ブランクがあっても仕事復帰しやすいだけでなく、グローバルに活躍できる会計士の仕事

社会人になって、結婚したら、専業主婦になると考えていたものの、とある女性会計士の方との出会いをきっかけに、粘り強く勉強をつづけた結果、公認会計士の資格を取得。現在では、有限責任監査法人トーマツでマネジャーとして活躍中の八木晴香さんにインタビューをさせていただきました。

結婚しても働き方を変えることなく、むしろ仕事をさらに楽しみながら、仕事の幅を広げ、さらに責任の大きいシニアマネジャーも目指していらっしゃいます。

会計士になった女性がライフイベントを経験しても仕事を楽しみ続けるポイントと、現役で公認会計士にならなくてもキャリアアップしていける仕事のポイントをご紹介します。

八木 晴香さん|有限責任監査法人トーマツ マネージャー

明治大学商学部を卒業し、有限責任監査法人トーマツに入社。主に総合商社の監査に従事し、グローバル監査対応を経験。一方でトーマツのD&I推進戦略の一環としてNOP法人J-winに参加し、他企業の女性職員と研究活動をおこなっている。

専業主婦志望から公認会計士志望に

ーー会計士になったのはいつですか?

八木さん:私は大学を卒業して4年経った26歳の時に会計士試験に合格しました。会計士を目指そうと思ったきっかけは大学1年生の時。

明治大学の商学部に入学したのですが、「商学部に入るなら将来は会計士がいいと思う」と父から言われて、資格について調べようと思ったんです。

明治大学には経理研究所という、会計士や税理士をサポートする資格支援センターがあったので、入所ガイダンスに行ってみました。

実は、当時の私は専業主婦になりたいと思っていたんです。母が専業主婦だったこともあって、バリバリ働きたいという気持ちはなく、どちらかというと、早く結婚してこどもを産みたいと思っていました。

入所ガイダンスでは、現在会計士として独立されている女性会計士の方々にお会いしたのですが、「専業主婦になりたいと思っているのですが、会計士の資格は必要ですか?」と唐突に質問したことを覚えています。

その時、「パートタイムで働くとしたら、時給1,000円で働くことと、時給10,000円で働くこと、どちらがいいですか?」と質問を返されて。

私は「10,000円がいいです」と答えたんです。

会計士の方は「それであれば、会計士の資格を取った方がいいと思いますよ」と。

このやり取りが会計士を目指すきっかけだったと思います。

ーー専業主婦志望から会計士を目指すとは180度変わりましたね!会計士になるまではどんな道のりだったのですか?

八木さん:会計士になりたいと思いつつ、一方で学生のうちは学生生活を謳歌したい気持ちもあって、とても中途半端な勉強をしていました。

在学中に資格が取れなくても、卒業後1~2年で会計士になろうと思っていたので、就活をするのではなく「勉強して試験に合格しよう」という気持ちでした。

ちょうど資格の勉強に本腰を入れた2008年は、合格者数が4,000人もいた会計士大量合格時代でした。そんな状況もあって、言うほど難しい試験ではないだろうと思ってしまったんですよね。

ただ、2009年から合格者数がぐっと絞られるようになって。

会計士の試験は、短答式と論文式、両方に合格しなければいけません。短答式は5科目でマーク試験。その次の論文式が7科目で論述試験。私は特に短答式試験に苦戦して、年に2度チャンスがあるのですが、合計で5回も落ちてしまいました。

25歳になる2010年、合格基準に1問足りずに不合格になった時、さすがに「もう諦めようかな」と思ってしまったんですね。

資格の勉強のためではありましたが、就職もせず両親にも迷惑をかけてしまっていることに申し訳なさもあって、会計士は諦めて就職しようと両親に相談したんです。

父は一言、「今まで積み上げてきたものをゼロにする選択は正しいのか?」と。「社会に出たら結果しか見てもらえない。いくら会計士の勉強をしていたことをアピールしても『でも、資格ないですよね』で終わり。ここまでやってきたのであれば、資格を取りにいく選択をしたほうがいいのではないか」とアドバイスをくれました。

父の言葉に背を押され、1年間改めて本気で勉強した結果、試験に合格することができたんです。

約2年半、苦しい時期もありましたが、合格できてホッとするのと同時に、「初めから本気でやらないといけなかったんだな」と実感し、反省しました。

自分の強みを活かすこと、やりたいことは口に出すことでチャンスをつかむ

ーー資格取得後、デロイトトーマツに入社を決めたのは何が決め手だったのですか?

八木さん:入社の決め手は、商社に強いこと。父が商社勤務だったこともあり、商社の監査をしたいなと思っていたんです。そのため、5年後に海外に赴任し、10年後は日本の企業に留まることなくグローバルに活躍する会計士になるというビジョンをもっていました。

というのも、日本経済の今後を考えると、海外市場を開拓することが必要だと思っていましたし、会計士という資格をとったからといって、日本に留まっているようではいけないと感じていたんです。

日本の公認会計士は、日本における監査基準と会計基準の勉強をしますが、グローバルでの活躍を目指すのであれば、国際基準の勉強もしなければと思い、その点でもトーマツであれば、触れる機会も多くなるだろうと感じたんです。

もうひとつの理由は、働く人の雰囲気のよさです。

2011年は就職が厳しい時代で、トーマツも説明会の開催は多くはありませんでした。それでも名刺をいただいた方に連絡をとったり、明治大学のOBOGにコンタクトしたりするうちに、「雰囲気が好きだな」と感じたんです。

日本には大手監査法人が4社あり、すべての選考に参加しましたが、最後までトーマツが第一志望でした。無事内定をいただくことができて本当にうれしかったです。

ーー入社して8年目を迎えていらっしゃいますが、お仕事においてはどのようなことを心がけてこられたのですか?

八木さん:資格を取得した時期が遅かったことが、私のなかでは大きなコンプレックスだったんです。

特に一発合格をしている学生合格者には、テストでは負けたけれども実務では負けたくないという気持ちが強かったですね。

普段あまり人と比較はしないのですが、仕事においては自分自身のパフォーマンスを常に気にしていました。

周りがあまり発言しないような会議で積極的に挙手するなど、小さなアピールも欠かしません。特に強みとしていたコミュニケーション力を軸に、社内外問わず「八木 晴香」の名前を覚えてもらってプレゼンスを高める努力をしていました。

何かチャンスがあれば声をかけてもらえるように、小さなことでも発言したり言葉にしたりすることを心がけていたんです。

ーー小さな心がけから、実際にチャンスにつながった出来事などはありますか?

八木さん:そうですね、名前とやりたいことを口に出していたらチャンスがやってくるようになりました。

たとえば、「英語をもっとつかう会社の監査をしたい」と言葉にしていたら、外資系企業の日本法人を担当することができたり、英語でレポーティングが必要な仕事を任せてもらえたりすることもありました。

スタッフ4年とシニアスタッフ2年の6年間はミドルクラスのクライアントの監査を担当させてもらって、学ぶことも多く仕事も楽しかったのですが、次第に監査業務だけでなく、もっとクライアントの経営面に寄り添い、新しい提案など深く介入するような関わり方をしたいと考えていました。

上長に相談する中で、海外に拠点を多く持つようなグローバルな企業の監査をしてみたい、せっかくBig 4と呼ばれるトーマツに入社したからこそ、もっとBig 4でないと担当できないようなクライアントの監査をしてみたい、と自分の希望する仕事の方向性を伝えてみたんです。

シニアスタッフとしての3年目、ついに商社の監査チームからお声がけいただいて、ジョインすることになったんです。

トーマツでは、シニアスタッフとして経験を重ねたのちにマネジャーに昇格する流れがスタンダードなのですが、ちょうどその時にプロジェクトを任されていた女性マネジャーが産休に入ることになっていたため、引き継ぎも兼ねて一足先にマネジャー業務にも携わらせてもらいました。

ライフイベント前に女性が意識して取り組むことは、自分のパフォーマンスの量をいかにあげられるか

ーーライフイベント前後で働き方や心がけることもありましたか?

八木さん:最初にお話しした通り、私自身はもともと専業主婦志向だったんです。苦労して会計士の資格をとりましたが、早く結婚してこどもを産みたいと考える自分もいて。

当時一緒に働いていた先輩のママさん会計士の方にも、よく「仕事をないがしろにするわけではないけれど、できれば20代のうちに結婚したい」という相談をしていました。

この時に先輩からもらったアドバイスが、今でも私の働き方に影響しています。

「出産後に育児と両立をするのなら、パフォーマンスは出産前のそれより下がってしまう。だからこそ出産前に自分自身のパフォーマンスの最大値をいかに上げられるかが勝負だよ」

「初めからセーブをしていて、自分のパフォーマンスに限界をつくってしまうと出産後に自分を苦しめることになる。結婚のことを考えることはいいと思うけど、仕事をセーブするのは全然違うと思う」

この言葉をもらって、私自身の可能性を潰すことはしてはいけない、独身のうちは仕事を100%でやろうと、心が切り替わったことを覚えています。

2018年に結婚したのですが、今では仕事がおもしろいと思うようになって、結婚したら仕事を辞めるという専業主婦路線はなくなってしまいました(笑)。

今後、こどもを授かって産んだとしても仕事に戻りたいと考えていますし、仕事と子育てを両立することを前提に考えています。

こどもを産んだら可愛くて仕方がなくなって、仕事をセーブしたいと思うこともあるかもしれません。

ですが、会計士の資格をもっていればブランクがあったとしても仕事に復帰しやすいですし、学生時代に女性会計士の方にアドバイスをいただいたように、パートタイムとして時間給で働く方法も今はあるかもしれません。そういった融通が利きやすい点はメリットに感じています。

ただし、会計基準や知識のアップデートは必要だと思うため、「アンテナは張っておかなきゃいけないんだろうな」とは感じています。

ーー今後の八木さんのキャリアビジョンについて教えてください!

八木さん:会計士の仕事とは離れてしまいますが、今年に入ってからさまざまな多様性を受け入れた職場環境づくり(Diversity & Inclusion)について興味を持ちはじめました。

複数の企業の管理職または次期管理職になる方同士で集まり、セミナーを受けたり、研究テーマにそって考察を深めるプロジェクトに参加したりしています。

さまざまな女性と関わる中で、「取り組みそのものを自社に持って帰りたいな」と感じることが多く、自社のダイバーシティ推進の方と進めていくことができたらなと考えているところです。

また、先日Deloitteの別のプロジェクトでポルトガルへ訪問し、ミーティングに参加したんですが、そこで他国のDeloitteのマネジャーとお話する機会があり刺激を受けました。

改めて、「日本だけをみていても良くないな」「そもそも日本というくくりだけで物事を考えてしまっていること自体がナンセンスなんだな」ということを痛感しました。

他国の方ともっと仕事をして、ネットワークを広げることに興味をもちましたし、監査以外の仕事も任せていただけるようになって視野が広がっていると感じています。

関われる仕事の幅が広がれば、仕事のおもしろさも深まるので、やはりいつだってチャレンジすることは大切だと思います。

今後は、マネジャーだけではなくて、シニアマネジャーやパートナーにも挑戦していきたいですね。

働き続けることで自ら居場所をつくる

いかがでしたでしょうか。

専業主婦を志望していたところから、仕事のおもしろさを見出しグローバルに活躍する会計士を志す八木さんにお話をうかがいました。

現役で合格しなかったことにコンプレックスをもっていたものの、自身の強みを把握するとともに、やりたいことを意識的に口に出すことでチャンスが巡ってくるようにしたり、自身に制限を設けずに自由に動ける間はパフォーマンスをあげることに集中したり、可能性をつぶさずにやりたいことを実現するコツをご紹介いただきました。

また、会計士という資格はライフイベントによってブランクがあっても仕事復帰しやすいことだけでなく、現状維持することなく勉強をしつづけ、会計士としてアップグレードすることが仕事を一層おもしろくすることも教えていただきました。