企業に勤めて働いていると、給与から当たり前のように天引きされる社会保険料などの控除。
個人差はありますが、少なからず手取りの給与が減ってしまうことからマイナスなイメージを持っている人もいるかもしれません。
しかし、なぜ給与から引かれるのか、何が引かれているのか、知識を持っておくだけでも心持ちは変わってきますよね。
社会保険の仕組みを理解しておかなければ、後に損をしてしまう可能性も。
そこで今回は、扶養や年金など、これからの働き方を考える上で知っておきたい社会保険の基礎知識について解説していきます。
そもそも社会保険って?
社会保険とは、国が定めている社会保障制度のこと。
「国民の健やかで安心できる生活を保障すること」を目的として、怪我や災害、病気や高齢になって働けなくなった時の生活を公的責任で支え、給付をおこなう仕組みのことを指します。
社会保険には、「健康保険」「公的年金」「介護保険」「労災保険」「雇用保険」の5種類の保険が存在します。
一定の労働条件を満たしていれば社会保険に加入して保険料を支払う必要があります。
正社員ではなくパートやアルバイトで働く場合、または家族の被扶養者になっている場合も、条件を満たしていれば加入の対象となります。
任意加入の生命保険や火災保険とは違い、公的機関が定めている保障を社会保険と呼ぶのです。
社会保険の代表的な5つの保険
社会保険を代表する5つの保険である「健康保険」「公的年金」「介護保険」「労災保険」「雇用保険」。
「聞いたことがあるけど実際にどんな仕組みかわからない」
「違いがよくわからない」
こう思う方も多いかもしれません。
そこでまずは、これらの5つの保険についてまとめてみました。
1|健康保険
健康保険は、病気やケガなどによる医療費の保障をする公的医療保険の1つです。
治療費や薬代の一部はもちろん、入院や出産などによる高額な医療費を、国や自治体が負担し、サポートしてくれる制度です。
会社で働く本人はもちろん、扶養家族がいる場合は被扶養者として適用されます。
医療費の負担割合については、病院等での自己負担が3割、事業所が7割負担となっており、国民健康保険も同様です。
国民健康保険は加入者が保険料を全額負担しますが、健康保険は会社と従業員(加入者)で保険料を折半します。基本的には毎月の給与から天引きされ、企業側がまとめて納付をしています。
退職後の健康保険は、退職後2年間に限り継続加入が可能で、継続を希望しない場合は国民健康保険に加入し、医療費の保障を受ける形となります。
2|公的年金
公的年金は、老後の生活に備えるための社会保障制度です。
日本国内に住所を持つすべての人に、加入義務があります。
公的年金は、「厚生年金」「国民年金」「共済年金」の3種類にわけることができ、それぞれ積み立てた金額に応じて、65歳から一定の金額を受け取ることができる仕組みとなっています。
会社勤めの人は「厚生年金」、自営業、時短労働、無職の人は「国民年金」、公務員や私立学校教職員の人は「共済年金」へ加入する義務があり、どれに加入するかによって、保険料の納め方も異なります。
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3|介護保険
介護保険は、介護が必要になった場合の介護費用をサポートしてくれる保険です。
基本的に40歳を過ぎると加入義務があり、保険料を支払うことになります。
64歳までは加入している健康保険と一緒に徴収され、65歳からは年金から天引きされる仕組みとなっています。
介護保険の加入者は、第1号被保険者(65歳以上の方)と第2号被保険者(40歳から64歳までの方)に分類され、どの程度の介護状態かは、市町村の認定次第となり「要介護」「要支援」「非該当」の3つに分類されます。
要介護認定を受けるには、住所のある市区町村の介護保険担当窓口で申請後、日常生活や身体機能の審査を受ける必要があります。
この認定次第で、受けられる介護サポートの内容が変わってくるのです。
また、介護保険制度は3年ごとに見直される仕組みとなっており、急速する少子高齢化に合わせて制度の見直しや改定がおこなわれています。
4|労災保険
労災保険は、仕事中や通勤中の病気やケガ、死亡に対して保障する保険です。
正しくは労働者災害補償保険と言い、労働者やその遺族の生活を守るための社会保険となっています。
業務中の病気やケガは、事業主が補償する必要があると労働基準法で定められており、正社員だけでなく、パートやアルバイトも給付を受けることができます。
病気やケガをした本人に、自己負担は一切発生しません。
医療費の保障といえば健康保険を思い浮かべる人もいるかもしれませんが、労災保険は業務上や通勤途中に起きたものだけが対象となります。
労災保険の給付を受けるには、労働基準監督署あるいは厚生労働省から請求書を入手し、必要事項を記入後、補償の種類に応じて必要となる添付書類とともに労働基準監督署に提出する流れとなります。
5|雇用保険
雇用保険は、離職や出産、家族の介護などによって働けなくなった場合に手当を受け取ることができる保険です。
雇用保険には主に以下の3つの加入条件があります。
- 31日以上の雇用見込みがある
- 1週間の所定労働時間(契約上の労働時間)が20時間以上である
- 学生ではない(卒業見込みがある・定時制は除く)
上記の3つに当てはまらない場合、雇用保険に加入することはできません。
雇用保険の代表的な保険は、失業した際に受け取ることができる「求職者給付」。
失業保険といわれるものです。
リストラや病気などでやむを得ず離職した場合、安定した生活や求職活動をおこなうためにサポートを受けることができます。
また、育児で休業する際は「育児休業給付」、介護で休業する際は「介護休業給付」など、状況によってさまざまな給付が用意されています。
雇用主向けの「キャリアアップ助成金」や「トライアル雇用奨励金」といった給付もあり、幅広いサポートをしてくれる社会保険となっています。
社会保険に加入しない人とは?損得はあるの?
ここまで、5種類の社会保険についてご紹介してきました。
社会保険は公的な保険であるため、企業などの事業所側に従業員を加入させる義務があり、会社員であれば基本的に加入することになります。
正社員ではなく、パートやアルバイトなどの非正規雇用である場合も、労働時間や年収について一定の要件を満たすかどうかによって加入・非加入が決まります。
ここでは、社会保険に加入しなくてよいのはどんな場合か、また非加入による損得についてまとめてみます。
アルバイト・パートが社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入する条件
アルバイトやパートで働こう!と考えた時、求人票に「社会保険完備」という記載を見たことのある人は多いと思います。
これまで「扶養内だから関係ない」と考えていた人も、いつ社会保険の対象となるかわかりません。
加入対象になる人とならない人との違いは、以下の5つの条件を満たしているかどうかです。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 雇用期間が1年以上見込まれること
- 賃金の月額が8.8万円以上であること(年収約106万円以上)
- 学生でないこと
- 常時501人以上の企業に勤めていること
注意したいのは、自分の勤めている事業所の規模が小さく、人数が少ない場合でも、本社や他の支社に500人以上の従業員がいれば該当するという点。
働き方を考える上で、上記の条件についてはきちんと理解しておきましょう。
社会保険に加入しないほうが得?年収150万円以下の場合
結論から言うと、扶養内で働く場合は、年収見込み額が130万円以上150万円以下の場合は、社会保険に加入しない方が「得」です。
社会保険に加入して保険料を徴収されると、実際の手取り額が130万円を下回ってしまいます。
そのため、むしろ年収130万円未満になるように労働時間を調整して働いた方がよいということになります。
逆に、扶養に入ることなくアルバイトやパートとして働く場合は、週30時間以上勤務して、勤務先の社会保険に加入したほうが「得」になります。
勤務先の社会保険に加入しない場合、各市町村の国民健康保険や国民年金に加入する必要がありますが、この場合の保険料が社会保険の保険料よりも上回るためです。
収入だけでなく、働き方によって加入の良し悪しが変わることを知っておく必要があります。
退職後、社会保険はどうなる?
最後に、意外と知らない人の多い退職後の社会保険についてまとめてみました。
社会保険に加入していた場合、退職日の翌日に社会保険の資格を失うことになります。
退職後も社会保険の保障を受けたい場合は、「健康保険の任意継続」の手続きが必要。
この手続きをおこなえば、社会保険の資格を最大2年間任意継続することが可能です。
ただし、以下の2つの条件を満たす必要があります。
- 社会保険資格を喪失する日より前に、被保険者期間が継続2ヶ月以上あること
- 退職日から20日以内に手続きをおこなうこと
また、社会保険の加入を希望せず、家族の扶養になる場合は、扶養を受ける人の勤務先に届けを出す必要があります。
扶養に入るには、年収や労働時間などの条件があるため、自分が扶養に入れるのかを事前に確認しておくことをおすすめします。
最後に
いかがでしたでしょうか。
今回は、社会保険について幅広くご紹介してきました。
社会保険は、万が一の時に私たちをサポートしてくれる社会の仕組みの1つ。
毎月給与から天引きされる保険料の額に、マイナスなイメージを持っている人も少なからずいたと思いますが、実は社会保険の加入は、収入アップや将来的にメリットが大きくなる可能性もあります。
今回ご紹介した、社会保険の内容や加入するメリットデメリットを把握した上で、改めて働き方を見直してみてはいかがでしょうか。